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時満ちる

 琅かんは北風の地下城と共に水底に沈んだ。北風壮次郎は遠く南蛮へ去り、菊姫は青井と共に清国へ渡り、豊臣に繋がる身を自ら彼の地へ封印しようとしている。その二人の安全を担保するために、あの清明上河図も一緒に海を渡る。何もかもがいちどきに遠ざかろうとしている。それは本話のタイトルであるさくら木の、時が満ち一斉に花の散っていくような潔さを持ってである。
 第一話の冒頭で「花はさくら木」のさくらはそもそも宝寿院の美しい枝垂桜だという説を紹介し、では「ひとは武士」の武士は一体誰を指しているのだろうか、と問うていた。かつて、田沼は 『 無私の精神だよ。私利私欲のなさこそ、我々の力の源泉だ 』(関連記事)と言ったが、正にわが身を捨てたところに人の道を見い出す、いわば愛と言い換えてもよい真の武士道を語っているように思えてならない。青井に立花について 『 武士をこえた男だった 』 と言わしめたのもその愛ゆえだろう。
 それにしても、文字の消えた琅かんの謎と、北風壮次郎が天下取りの野望を持つに至った経緯は何だったのだろう。いずれの正体も不明のまま視界から消え去ってしまったのだが。
(第219話の感想)
by kpage | 2005-11-26 14:51 | ■花はさくら木の感想