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根無し草

 つげ義春氏に「ゲンセンカン主人」という作品(漫画)がある。その中で、主人公の男が、『前世ってなんのことです』 と問うと、宿のお婆さんが答える、『鏡です』、『だって前世がなかったら私たちはまるで』、『幽霊ではありませんか』 と・・・、お婆さんの輪廻や前世の因縁についての感覚に面白いなと思ったことがあったのだ。
 菊姫の今ある身や心の所在なさというのは、前世や現世などという世界のことではないが、人生のある時点に立てられた鏡の、こちら側の自分と、向こう側の同じはずの自分とが全く結びつかない、まさに幽霊、根無し草のような感覚に菊姫は囚われていたのだろう。
 ところでサブタイトルは「しのび逢い」のままである。金世文との会見が「しのび逢い」とは思えない。御土居の下のトンネルをあてどなく巡り、終には気を失う菊姫と、一方で田沼の設けた折角の宴にも顔を出せぬほど菊姫への恋に患う青井三保とに、どのような接点が待っているのだろうか。
(第83話の感想)
by kpage | 2005-07-10 15:01 | ■花はさくら木の感想